和菓子店の5代目ということですが、お店を継ぐことは決めていたのですか?
いえ、決めていませんでした。私はずっと野球をしていて、大学も野球部でした。大学を卒業するときに、もう少し野球をしたいという気持ちがあったので、親父に言ったところ、「いいよ。ただ、野球をやった後、そのまま会社に残るのもいいけれども、もし菓子屋をやりたいなら、見習いから始めないといけないよ」と言われたのです。野球で飯が食えるわけでもないし、30歳手前から見習いというのも厳しいので、野球を諦めて、菓子屋になりました。
また、以前から聞いていたおじいちゃんの話も大きく影響しています。戦死したおじいちゃんが戦争に行くときに「すぐ戻ってくるから菓子屋は続けてくれ」と言って戦地に行ったそうです。このような話も聞いていたので、「自分がやらなければ終わる。自分が終わらせて良いのかな」という思いもありました。
思ったときに思ったことをするように努めています。私はスポーツをやっていましたが思い切りが良くなくて、「あのとき、やっておけば良かった」と後悔することがあるのですが。思ったときが商売の分岐点、チャンスが訪れているときかもしれません。何かを感じるから、思うのでしょう。そのときに一歩踏み出すことが大事です。続けていくには、ずっと同じでは続かないです。私たちは材料や作り方を時代に合わせて工夫しています。変えるのは勇気がいることですが、工夫する努力を怠らないようにしています。
子どもたちに譲るときは、余裕を持って仕事ができるようにして譲りたいという思いがあります。私は中学も高校も野球ばかりしていたので、親が仕事をしているのをほとんど見たことがありませんでした。小さいころ、5月の節句の柏餅の葉を巻くお手伝いをした記憶はあるのですが、大変な世界だとは思っていませんでした。中に入ってみると、職人の世界は「朝起きると仕事が始まって、仕事が終わると寝る」の繰り返しで余裕がないのです。もっと良いやり方があるんじゃないかといつも考えています。